ISSUE 取り組む課題

傷ついた子どもたちには、
安心して回復できる居場所が必要

虐待などで安心できない家庭で、暴力や暴言にさらされながら、逃げる場所もなく、我慢して生活を続ける10代の子どもは現に社会にいます。

そんな子どもたちのために、一時保護所がありますが、定員いっぱいで入所できなかったり、集団生活のため個別対応が難しいなどの課題があります。
子どもセンターぬっくは、そんな子どもたちが家庭的な温かさを感じられる居場所として、子どもシェルターや自立支援ホームを運営しています。

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家庭に居場所のない
子どもたちの実情

制度のはざま

高校生の養育を担い、高校生活を支えるはずの児童養護施設等は、中卒や高校中退した子どもたちを、ほとんど受け入れていない実情があります。
また、18歳・19歳になってから児童相談所に相談しても、一時保護は法律上できないため、してもらえません。

高校進学率が95%(通信制含むと98%)を超え、大学・短大・専門学校等への進学率も80%を超える社会において、 中卒や高校中退した子どもたちだけでなく、全日制に通う高校生ですら、シェルターや自立援助ホームくらいしか、 生活の場としての選択肢がありません。

ぬっくの自立援助ホームには、自立の準備をする以前に、受容し、養育するところから始める必要のある子どもたちがたどりついています。 受容と自立という2つの課題は両立しがたいところ、その両方の支援が求められる実情にあります。

複合的な傷つきによる
生きづらさ

幼少期の課題の積み残し、心身の傷つきを抱えたまま、思春期を迎える子どもたちに、自立の支援をすることは大変な困難を伴います。虐待等により尊厳を傷つけられた子どもたちは、対人不信や深い孤独を抱えています。それらは、自傷、人やモノへの依存、困ってもSOSを発さず我慢し続ける、自分から連絡を絶つなど、さまざまな生きづらさとなって表れます。時には非行や問題行動として表れたり、被害者になったり、なりかかったりなど。自立援助ホーム内や、学校・職場等での対人トラブルにつながることもあります。
被害者にも加害者にもならないよう、細心の注意をもって支援しつつも、現実に起きたときには、子どもの気持ちや特性を踏まえながらの対応が必要となります。難しく悩ましい課題です。

ニーズに応じる難しさ

スマホを手放したくない、他人との共同生活は無理といった理由で、支援は受けたいのに、シェルター等への入居を希望しない子どもたちが、最近増えてきています。
そのため、相談の入口で途切れてしまうことのないよう、よりそいつつ、現実的な対応が求められています。

子どもたちの思い

「おとなは嫌い」「話なんてしたくない」

虐待や非行等で、心身に傷つきがあるために、職場での対人関係がうまくいかなかったり、一般的な指導や助言も「自分を否定された」「やっぱり自分はダメなんだ」と過度に落ち込むことにつながって、結果的に仕事が続かなかったりすることが少なくありません。また、こうして自信を失い、他人への不信感や苦手意識をさらに強くしてしまい、アルコールやタバコ、彼氏などへの依存や執着を生むなどといった悪循環に陥ってしまう場合もあります。
そういったことから、大人への不信感が高まると、心を閉ざし、直接会うのを避けるようになりがちです。


しかし、

「本当は信頼でき、受け入れてもらえる誰かとつながりたい」
「話を聞いてもらいたい」
「でも、もうこれ以上傷つきたくない...」

SNSで、一面的であったり虚偽で装った自分を褒めてもらっても、ぽっかり空いた心の穴は埋まりません。わかっていても、そうしてでも埋めていないと辛すぎる現実があるのです。
また、ようやく少しずつ、信頼できそうな大人と関係ができ始めても、わざと相手が嫌がるようなお試し行動をしたり、相手との関係がいつか途切れるのではないかとの不安から、自分から関係を断とうとしたりします。一見すると不器用で、わかりにくい行動です。

子どもセンターぬっくは、
そんな子どもたちがたどりつく最後の砦です。

ぬっくの取り組み

  • 子どもたちの生きづらさは、
    社会の責任

    生まれてくる親や家族を子どもたちは選べません。心身に傷を負い、大人不信等の生きづらさを抱えた10代が、 他者とつながることなく自立することは困難です。

    「私は、ひとりぼっち」
    「私には生きる価値なんてない。」

    と子どもたちに感じさせる社会。

    これは、子どもたちやその保護者の自己責任ではなく、
    そのような社会を作っている私たち一人ひとりが取り組むべき問題(社会問題)です。

  • 傷ついた子どもたちには、
    人の温もりのある日常や
    関わりが必要

    スマホでつながる見知らぬ人に代わる何か、を提供すること。

    それは、子どもたちの心身の傷つきを受けとめ、安心できる身近な大人のいる温もりある日常生活であり、 また、退居した後も、関心を寄せ、息の長い関わりを続けることだと思うのです。そのような日常生活や長期的な関わりを通じて、 傷つきが少しずつ癒されていき、自分には回復する力があると実感してもらうことは、とても重要なことだと考えています。

    私たちは、子どもたちの傷つきを癒し、尊厳の回復につながるような温もりある生活を提供し、息の長い関わりを続けていきます。

  • 子どもを真ん中に、
    アセスメントしてチームで
    対応します

    ぬっくにたどりつく子どもたちの複合的な課題について、まずは、子どもを真ん中に置き、子どもの声を聞きます。 その上で、課題の糸口を探し、一つずつ解きほぐし、支援者がチームとなって、アセスメントしながら取り組みます。

数字で見るぬっくの活動

  • ぬっくハウス
    巣立った人数

    151

  • Re-Co
    巣立った人数

    18

2023年2月 現在

ぬっく初代理事長、
森本からのメッセージ

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弁護士/子どもセンターぬっく初代理事長森本 志磨子

2016年4月居場所のない子どものための緊急避難場所(シェルター)の運営を開始。2016年4月〜2022年6月まで理事長を務める。理事長退任後も、一理事としてぬっくに携わりながら、ぬっくの活動を始める原点となった週末里親 や、社会的養護の当事者団体Children’sViews& Voices(CVV)の活動などを続けている。

「10代で、虐待などにより安心して帰れる家がない。
なぜ、そんなことが起きているのか。私が同じ立場だったら、どんな気持ちになるだろう。」

「目の前にいる子どもと私は、いったい何が違うというのか。

少年事件の付添人活動や、社会的養護の当事者グループ(CVV)の活動に関わる中で、何度も問いかけていました。

そんな中、2004年、全国で初めて、東京で、居場所のない子どもの緊急一時保護の家「子どもシェルター」の活動が始まりました。その後、神奈川、愛知、和歌山などでも活動が広がり始めました。
当時、年間約1800万円の運営費は、すべて寄付金等でまかなわれていました(2011年7月、国から措置費が出ることとなり、年間300万円くらいの寄付金等があればなんとか運営できるようになりました。)

子どもシェルターにたどりつくのは、制度のはざまに落ち込み、虐待等で心身ともに傷つきながらも生き延びてきた15~19歳の子どもたちです。思春期も絡み、複雑かつ困難な課題を抱えさせられています。このような子どもたちの支援には、福祉・教育・医療・司法など、さまざまな専門家や市民ボランティアがしっかりと連携し、協働することが求められます。

しかし、
「福祉のことを、素人の弁護士ができるわけがない。」
「それは、弁護士がやることじゃない。」
「年間300万、400万の赤字になる。寄付金を集め続けられるのか。」
このような声が聞かれる中、
「森本さんが始めなかったら、誰も大阪で始める人はいない。だから、とにかくやれるところまでやればいいんだよ。」と声をかけてくださる人がいました。

こうして、
「一人でもいい。子どもシェルターにたどりついたことで、少しでも傷ついた心身を休めることができ、生きる力を取り戻し、前向きに自分の人生を歩めるようになる子どもがいれば、やる価値はあるのではないか。」
「弁護士という職業は、さまざまな関係者が連携していく上で、役立てることもあるのではないか。」

そんな思いから、ぬっくを立ち上げ、活動を始めました。

「これは、福祉の問題で、役所がするべきこと。」「自己責任だ。」
このように、自分にできることはない、自分が関わることではない、と言い続けても、目の前にいる生きづらさや深い孤独を抱えた子どもたちの実情は何も変わりません。
特効薬はありません。
ですが、私たち一人ひとりが、「自分がもし同じ境遇だったら」とか、「誰にでも起きうることではないか」など、自分ごととして考え、一人ひとりが、具体的に一歩踏み出す。
たとえば、身近にいる生きづらさや深い孤独を抱え、不器用に生きる人たちに、「何かあってそうなっているのでは」と考え、自分ごととして関心を寄せ、その人を理解したいという思いで、温かなまなざしや言葉かけを日々続けていくこと。
そういうことは、できるのではないでしょうか。

そのような地道な一歩の積み重ねこそが、対人不信や深い孤独を抱えた子どもたちのこれからを、確実に変えていく力となっていきます。

そして、誰もが、人の温もりを感じながら安心して自分らしく生きていける社会へと、つながっていく。そう思うのです。